俳優で歌舞伎役者でもある香川照之さん(51)が離婚した。
幼い頃に父が離婚し、以後父と子の間に確執が起こっているともいわれていた。
そのような原体験をしていた香川照之さんだけに、今回の離婚劇は彼に相当大きなショックだったはずだ。
元CAの知子夫人とは、歌舞伎役者の舞台とともにこの6年間テレビや映画出演も盛んに続けていて休みなし、ともいわれ、それによって夫婦の間で深くできてしまったすれ違いという溝。
それが離婚の直接の原因というが、もっと深く掘り下げてみれば香川照之さんは父との確執に端を発しているのかも知れない。
それを考えて見た。
父との確執劇の裏にある親子の愛情とは
香川照之さんは東大卒という異色の肩書きで、しかも当初は父の市川猿之助(猿翁)さんとは異なり、歌舞伎の道に進むことはなかったが、東大を卒業した頃にはAD(アシスタントディレクター)のバイトから俳優の道に入り、89年に俳優としてデビューを飾っている。
役者という大きなくくりでいえば、あたかも父と同じ轍を踏んでいるような人生だったかも知れない。
だが彼もかつて自分と母親を捨てて父との確執は忘れていなかったはずだ。
それを決定づけたのは、やはり25歳の俳優デビュー時に、香川照之さんが父の公演先に行って、その挨拶をした時だろう。
父からいわれたのは、普通に考えられるような「おめでとう」とか「しっかりやれ」みたいな言葉ではない。
“自分はもうあなたとは何の関わりもない”
“息子でも父でもない”
“二度と会うことはない”
このように市川猿之助さんは実の息子の香川照之さんに言い放ったといわれている。
すでに産みの母親だった浜木綿子さんを自分が3歳の頃に捨て、16歳も年上だった踊りの師匠筋に当たる藤間勘十郎さんの妻・藤間紫さんと再婚を果たしている。
私生活を見ればものすごいとしかいいようがないし、また実の息子に対して言い放った言葉には仰天する人も多いだろう。
だが、それでも猿之助さんは父としての片鱗を見せていると思われてならない。
それを示すのは、香川照之さんが俳優デビュー時に会いに行った時、開口一番に彼に語ったのは
“大事な公演の前にいきなり会いに来るなんて、役者としての配慮がない”
という言葉。
本当に縁が切れて赤の他人であったら、果たしてこれを言い得るだろうか?
そもそもこの言葉は、役者、俳優としての気配りの大切さを実の父親が叱責を込めて伝えた愛情の塊のように思えてならないのだ。
このときの心境を後年市川猿之助さん自身がNHKスペシャル『父と子 市川猿之助・香川照之』の中で自ら語っている。
その内容はまさしく父の息子に思いやる気持ちそのままだったと言えるだろう。
“自分は生きるも死ぬも身一つでやってきた。独立自尊の精神が大切だ。私のことを父と思わず何事も耐え抜け”
親子の形というのはいろいろかも知れない。
そしていくら法律で、または決心して、切ろうとしてもやっぱり切れないのもそういう親子というもの。
親子というのは形ではない。
心と血にちがいない。
人間的に成長して丸くなった香川照之?
確執というよりは、香川照之さんもそういう女性関係では特に結婚前、父ほどではないにしろそういう女性関係の片鱗がある。
知子さんと結婚する直前まで、タンゴ歌手で元「ミス札幌」の冴木杏奈さんと長らく熱愛関係があったことが知られている。
それがどういう経緯で知子さんと入籍に至ったのか、彼女が一般人だからこれ以上の情報はないにしろいわゆる略奪婚めいた謎もいまだに多く語られていたりする。
ただ、それでもこういう実体験を通して、東寺自分が幼い頃に母親と自分を捨てて父が他の女性のところに走ったことは、ある意味同情のような気持ちにもなったことは十分想像できる。
そして今回の離婚に至る家庭内での確執は、ある意味役者や俳優にとっては不可避なものとも考えているのではないだろうか。
もちろん確執をかんじたら即離婚を勧める、などということはおくびにもいうことはできないにせよ。
46歳で歌舞伎役者デビューという異色のキャリア!
6年間も休みなしに役者として働きずくめ、という夫を支えて慣れない梨園の妻を続けていた知子さんの重圧は、しかしながらそういう親子関係の修復の狭間で絶えず増大していったにちがいない。
普通に考えれば誰でもおわかりだろうと思うけれど、悩みがあってもどこにもしゃべれない、本当のことを洗いざら言えずずっと黙っている生活を強いられる、というのは大変な精神的プレッシャーだ。
とくに香川照之さんは46歳という年齢になってさらに新たなチャレンジ、つまり父と同じ歌舞伎役者の世界に身を投じるという異色のキャリアを飾っている。
その勇気と決断力には喝采をしたいけれど、それを支える嫁の立場としては相当につらかったこともあっただろう。
長男、政明君とともに二人の子供たちの親権がどうなっていくのか、おそらくは母・知子さんに渡るものだと思うが、良くも悪くも香川照之さん。
破天荒な父、市川猿之助さんとともに役者人生の華をまた一つ添えていくのかも知れない。
(一ノ瀬絵美)